先日、古い本を整理していると、懐かしい本が出てきた。それは、母校の教授が書いた随想集であった。大学入学後1~2年は、「教養課程」といって、専門教育は一切なく、体を鍛え、そして一般教養を身につけるための勉強を強いられる。この教授の担当は英語である。2年時にシェイクスピアの「オセロ」を原語で読まされた。使われている英語は、古語であり、分かり難いことおびただしい。しかも訳に際し、この教授は、奇麗な日本語、正しい日本語を要求する。辞書に首っ引きでやっと訳した日本語は、発表している自分でも、何を言ってるんだか分からなくなってしまうこともある。そんな時に大きな雷が落ちるのである。「そんな日本語、あるか~!!」、教室全体に響き渡る声で怒鳴り、皆の前でボロクソにやり込められるのである。また、読み進んでいくうちに、登場人物の性格も把握した訳をしていかなければならない。戯曲であるので、場面にあった訳もしなければならない。いいかげんにしようものなら、「何を言ってるんだ~!!」と大声を上げられる。しかし、怒鳴られている本人以外のクラスメートは、ニヤニヤとそんな光景を楽しんでいるのである。「ああ、また、あいつ、やってしまったな」と。一通り怒鳴り終わると、「では、次!!」と次の訳の担当にいくのであるが、前の担当者が怒鳴られているので、恐る恐る小声になろうものなら、「声が小さい!聞こえんぞ!!」とまた怒鳴られる。しかし、決して雰囲気が悪くなるわけではない。皆この教授に親しみをもって接していた。
卒業して何年か経って会う機会があり、「先生、本、読みましたよ。」と言うととても喜んでいた。しかし、教授曰く「あの本のおかげで、女房と冷戦状態になったんだよ。」本をめくると最初のページ一杯に、どこかへ旅行をした時の写真が載っているのである。それも奥さんの肩を抱き寄せた仲睦まじいツーショットなのである。どうも奥さんに無断でその写真を使ったらしい。それを知った奥さんから、猛攻撃にあい、さすがの先生も白旗を上げたらしい。痛快であった。
この教授に関するエピソードはたくさんあるが、それはまたの機会に。(思えば、このような名物教授が何人かいて、丁々発止のやりとりは、懐かしくも楽しい青春時代の思い出である。ちなみに本の題名の「菅野」は、我等が聖地、青春時代を謳歌した進学課程があった市川の地名である。)
2013-11-22